いつか、らせん階段で
「さすが、鋭いね」

「さっき、可南子さんもそんな表情してましたから」
私はさっき見た可南子さんの顔を思い出していた。

「この間、尚也が来たんだよね」
「そうらしいですね」
「夏葉ちゃん、尚也と話をした?」
「話したって言うほど中身のある話はしてませんよ。私には話したい話なんてないし」

3年前のことは二人に話してある。

「・・・そうだよね」
「何がそんなに大貴さんの気にかかるんですか?」

「いや、あの日、バイトが休んでてさ、俺も可南子も忙しくて尚也とほとんど話ができなかったんだ。だけど、尚也が必死で夏葉ちゃんの居場所を探しているようだったから、何だか違和感っていうか」

「昔の彼女なんて探してどうするんでしょうね。生死を確認したかったのかな?」私は皮肉を言った。

「うん、でも本当に夏葉ちゃんの事探してた。ここしか手がかりがないって」

「そうですね、私は転職したし引越しもしたし。尚也と私はドクターとナースですけど、出身大学も違うし勤務先の病院も違うから共通の知り合いなんていないし」
だからこそ付き合いやすかったのかもしれない。

「尚也から連絡きたの?」

「ええ。可南子さんには話たんですけど、メッセージが毎日のようにきますよ。一度も読んでませんけど。そのうち諦めるんじゃないですかね」

「・・・そんな奴かな」

「いくら昔の知り合いだって、既婚者と連絡取り合うなんて奥さんに悪いですよ」
ねっ、っと大貴さんに笑いかけた。

「俺は可南子一筋だよ」
苦笑いしてアゴ髭を触っている。

「信じてますよ、大貴さん。私の夢と理想を裏切らないで下さいね」

「夏葉ちゃんの夢と理想って何?」

「妻に一途で裏切らない夫」
首を傾けてニカっと笑った。

「ウチの事かぁ」
「ハイ。大貴さんご夫妻の事・・・ですよ?」
「夏葉ちゃん、疑問系はやめてよ。俺は可南子一筋だから」
「ええ、信じてますけどね。イケメンもイケメンの奥さんもいろいろ大変だろうなって」

「勘弁してよ、可南子と桜と桃で精一杯だからさ。それに美人の奥さんを持つのも心配で大変なんだぞ」
2人で笑った。
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