御曹司と婚前同居、はじめます
「古いものは朽ちて新しいものが育たないと、世の中は回っていかないんだよ」

「でも、あの家は本家だし……」

「階段の板が軋んでいるところもあるし、雨漏りもしているし、あんなボロ家、大きな地震でも起きてごらんなさい。家も住人もぺちゃんこだよ。それに、瑛真くんと結婚するんでしょう? おばあちゃんのことはいいから、幸せになりなさい」


急に感情が込み上げた。

止める暇もなかった涙が溢れ出てくる。


「式の準備は進んでいるのかい?」


涙を拭いながら首を振った。


「瑛真くんは仕事が忙しいのかねぇ」


私を気遣う声音に、もっとしっかりしなくちゃ、と気持ちが奮い立たされる。


「まだ婚約したばかりだもの。これからよ」


安心させるように微笑む。


「そうだねぇ。おばあちゃん楽しみで仕方がないんだよ」


おばあちゃんは安堵の笑みを浮かべてベッドに深く背を預ける。それからすぐにうつらうつらし始めて、重たくなった瞼が瞳を閉じるまで、私は黙って見守った。


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