さまよう爪
髪を切る。

こういうときに長めとかミディアムな長さの髪型でよかったと思う。

以前、会社の子が長かった髪をばっさりと短くして、人の気持ちが分からない男どもにそのことをいちいち触れられていたのを見たことがある。

髪型の変化に必ず気がつけばいいというわけでもないのに。

誰彼構わず触れて欲しいわけではないのに。

髪型の小さな変化には気がつかないのに、気づける大きな変化を見つけると、俺は人の心がわかっているのだと言うようにそのことで話しかけてくる。

くだらないことを聞いて、にらみつけられているのにそれがわらないんだ。

結婚式を挟むし会社ではさほど指摘はされないだろうと思う。

腕のいい美容師がいて、友達が彼を紹介してくれたのだ。

彼女は彼のことを腕がよくて結構顔がよくってさと笑いながらわたしに紹介した。

彼女の紹介だからと、彼を指名してみた。

腕がいいのは本当で、だからわたしも彼のことは気に入っていたのに。

美容師には2種類のタイプが居ると思う。

1つ目は美容院から出るときに髪型が完璧である様に仕上げるタイプ。

2つ目は美容院に行った1週間後くらいに髪型が完璧になるように仕上げるタイプ。

もちろんこれがカットじゃなくてヘアセットやカラーだと話は変わる。

わたしは2つ目のほうが好みだった。

だって、美容院から出たら徐々に髪型が衰えて行くとか嫌じゃないか。

友達が紹介してくれた彼は後者のタイプだった。

だからよく通っていたのだけれど、友達とその美容師が寝たと聞いて何だか行きづらくなってしまった。

そのことは友達の口から直接聴いた。

付き合っている訳ではないけれど、寝たのは1回2回ではないらしい。

そのことをどうこう言うつもりはないが、あの美容師には顔を合わせづらいなと思う。

笑顔が良くて、話もスマートだった。なのに彼にはもうわたしの髪の毛に触れてほしくないと感じている。

彼は彼女のような女性がタイプなのだろうか。

ただの性処理対象にすぎないのだろうか。

美容師で奔放。マコさんを思い出す。彼女もこういうことをしていてどう思っていたのか。

瀬古さん。

瀬古さんとはあれから遊んではいない。連絡もしていない。それでもドラッグストアには変わらず行っていて、お互い目が合えば挨拶は交わす。一言二言とりとめのない会話。

今はそんな感じ。
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