さまよう爪
「今でも愛してるのぉ」としくしく泣き真似する彼にわたしは呆れる。

だけど具体的には何を言うでもなく、小さく首を傾げる。

彼は、とにかくお人好しらしい。

それも筋金入りの。

偶然居合わせただけに過ぎない通りすがりのわたしの愚痴にも付き合ってくれたし。

「……何を話しているんだろ、わたしたち」

「きみの彼氏になれる男、幸せなんだろうなぁって話」

そしてやっぱりチャラいのか?

残りのモヒートに口をつけて。

沈黙がおとずれた。

「何でそこまで言えるの? 知り合って間もないじゃん」

「泣き顔がブスだから」

「……はい?」

「テレビで女優がお涙ちょうだいのVTR観て、大きな瞳からはらりと涙こぼして、しなやかに泣いてるじゃん。計算された美しい泣きかた。
でも本当に泣くときなんてあんな美しいわけがないでしょう。涙でべちょべちょになってマスカラは落ちて黒い涙になるわ、鼻や口からも何やら出るわ。きみはそうだから、ああ、この子
いい子だわぁ、好感持てるわぁってね」

何ワケのわからないことを。

「自分可愛さで泣いたかもですよ」

「理由なんてどうでもいいよ」

それでわたしは笑ってしまう。
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