意地悪上司は私に夢中!?
冷静になったら、徐々に断片的に記憶がよみがえってきた。

龍二の夢を見たこと。

龍二の名前を呼んだこと。

誰かが涙を拭ってくれたこと。

その手が私の手を握りしめてくれたこと。


…どこからどこまでが本当?

手を握ってくれたなんて…私に対して永瀬さんがそんなやさしいことするはずない。

多分幻だ。うん、間違いない。

サイドテーブルに置いてあった胃薬とミネラルウォーターをもらい、それからしばらく眠った。


ベッドはやっぱり寝心地がよくて、私はそのまま爆睡してしまったらしい。

目が覚めたらもうお昼近い。

さすがに遅刻しすぎるのもまずい。

ゆっくりと起き上がって寝室を抜けた。


リビングはウッド調のダークブラウンで統一されたシンプルな部屋。

モデルルームかよ!と突っ込みたくなるほど整っている。

もっとゲーム機が散乱していて、漫画や雑誌なんかも散らかっていて、掃除もろくにしてないような…そんなイメージだったのに。

ご丁寧に新聞紙をまとめてひもで縛ったものが隅に置いてある。

几帳面だな。

ウチなんかよりもずっと片付いている。

パッと目に入ったカウンターキッチンの奥の冷蔵庫に、『食べられるものがあったら食べろ』と殴り書きのような張り紙がしてあった。

冷蔵庫の中にはろくなものが入っていない。

調味料以外は大体ビールだ。

多分私と同じでコンビニ弁当やスーパーのお惣菜がメインなんだろう。

…だけど、真ん中の段にヨーグルトやプリン、果物のゼリーが入っている。

昨夜、帰りに買ってくれたのかな。私のために。

…いやいやいや、永瀬さんがそんなにやさしいはずはない。

だけどお腹は空いていて、せっかくだからゼリーをご馳走になった。

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