意地悪上司は私に夢中!?
まだ週が明けたばかりなのに、この前のホテルの件の疲れをまだ引きずっているのか、どうも身体中がだるい。

いつもはシャワーで済ませるところだけど、今日はお風呂にお湯をはった。

長風呂をして脱衣所に出た時だった。

床を黒い影がすごい早さで蠢いていった。

一瞬フリーズしたのち。

「き…キャーッ」

悲鳴をあげながら大パニックでリビングへ戻り、裸のまま電話を手に取った。

龍二…はもう別れてる。

ここまですぐに駆けつけてくれそうなのは…

永瀬さんのアドレスをタッチし、電話を掛けた。

『もしもし』

「永瀬さん助けて!」

『あ?どうした?』

「助けて!すぐに来て!今すぐ!」

『あ、ああわかった。落ち着け。
5分待て』

電話が切れた後、その辺に転がっていた部屋着を着て、外へ出た。


部屋の前の壁に寄りかかって座り込み、ひたすら永瀬さんが来るのを待った。

髪の毛から雫がぽたぽた落ちている。

タオル、持ってくるの忘れちゃった。

でも取りに行く勇気もない。


…あいつだ。

私が世界一嫌いなあいつ。

あいつがとうとうこのオンボロアパートに狙いをつけたんだ。

恐ろしくて背筋が凍ってしまいそうだ。


「鈴原!」

息を切らして階段を駆け上がってくるのは永瀬さんだった。

思わずその腕をぎゅっと掴んだ。

「何があった」

「助けてください。Gが…」

「G?」

恐怖で震えが止まらない。

「カサカサ動く黒い物体です。名前を呼ぶのも憚られるような恐ろしいあいつです」

「ああ。ゴキブ…」

「名前を呼ばないでください!!」

私の必死の訴えに少し沈黙した永瀬さんは、ふうっとため息をついてしゃがみこんだ。

「…バカかっ!何事かと思ったじゃねーか!」

「だからGですよ!大ごとです!」

「お前よく見たら髪も濡れっぱなしだぞ。ずっと外にいたのか」

玄関を開ける永瀬さんの背中に捕まり、恐る恐る中に入る。

< 61 / 123 >

この作品をシェア

pagetop