何度でも恋に落ちる

東京の街はたくさんの人々が行き交っている。



その中に背格好が翼に似ている人や翼と同じ香水を纏っている人がいると、無意識に振り返ってしまう千夏。



「…私はバカだなぁ…」




千夏は小声でそう呟くと、人波から離れ翼が住んでいたアパートに足を運んだ。



返却し忘れた合鍵を握りしめて部屋の前に立つと、ドアの横に貼られている表札が知らない人の名字になっていた。



もう…

ここに来たって翼はいない。




「待ってるつもりなんかないし、待たないって決めたのに…。私はまだ心の何処かで、翼が迎えに来てくれると信じているんだ…」




千夏は合鍵を握った手を振り上げると、そのまま力無くその手を降ろした。





「…なんで？もう４年だよ？２年経ったら迎えにくるって約束したじゃないっ！…どうして来てくれないのよ…」



千夏は合鍵を知らない人の家となったドアの前に置くと、涙を流しながらアパートから立ち去った。






“ちー、大好きだよ”



翼の声で
その言葉を聞きたいのに…


翼がそう囁いて
何度も恋に落ちたいのに…




もう翼の声がどんな声だったか忘れちゃったよ。







千夏が家に帰ると、真弓と隼人が玄関に駆けてきた。



「千夏！千夏っ!!」

「どうしたの？」



千夏が興奮する真弓を宥めると、真弓は息を整え話し始めた。




「持田さんが帰ってきたの！今リビングにいるんだけど…でもね」



真弓の言葉を最後まで聞かず、千夏は靴を脱がないままリビングに入った。



リビングのソファには懐かしい匂いを纏った綺麗な顔の男が座っている。





少し髪が伸びたな。
ちょっと痩せたみたい。
大人っぽくなったかな？




千夏がボォッと４年ぶりの翼を見つめていると、翼が千夏を見た。



千夏は目が合った瞬間、涙が込み上げてきた。






しかし…


翼が発したのは

意外な言葉だった。