何度でも恋に落ちる
「…誰?」

「え?翼?…」



翼は無表情のまま千夏を見ている。



千夏は翼の肩を掴むと力いっぱい揺さぶった。




「翼っ!ちーだよ、千夏!悪ふざけはよしてよ。約束破ったのは許してあげるから…!!ちーって呼んでよっ!!」



千夏がそう叫んでも翼は首を傾げるだけだった。




「…千夏ちゃん。翼ね、千夏ちゃんの事だけ忘れてんだよ」


「え?…どうして…」


「4年経っても一向に帰ってこねぇから連絡してみたんだよ。そしたら翼、ちゃんと2年前に帰ってきてたんだ」



隼人の話によると、翼は留学してから2年後に日本に帰国していたらしい。



しかし東京に帰ってくる事はなく、実家にいたという。



そして何故か千夏の記憶だけを失している。






「…なんで私だけを忘れるの?翼にとって私は…簡単に忘れられる存在だったの?」


「違うよ、千夏。…持田さんは寂しさに耐えられなかったんじゃないかな?…千夏を想って想って想い過ぎて、おかしくなっちゃったんだよ」




翼の肩を揺さぶりながら泣き叫ぶ千夏の背中を真弓は優しく撫でる。




「私はどんなに寂しくたって4年間待ち続けてたんだよ!?翼を…忘れた事なんかなかった…」



千夏は翼から離れると、自室に入りドアを閉めた。





「…翼。お前、本当に千夏ちゃんを忘れたのか?……千夏ちゃんとの大事な約束まで忘れちまったのかよ」




隼人は呆然と座り込む翼を悲しそうに見つめた。
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