何度でも恋に落ちる

9・約束の指輪

負けない
泣かない
頑張る
大丈夫



翼がいなくなってから、千夏が呪文のように呟いていた言葉。




だけど本当は…




寂しさに負けてしまう
声をあげて泣きたい
1人じゃ頑張れない
大丈夫なんかじゃない




そう言いたかった。








「一人で暮らすとなると、家賃が安くないとなぁ」



真弓の結婚が決まり、真弓との2人暮らしの終わりが迫っている中


1人では結構な家賃がするこのアパートには住んでいられない千夏は、賃貸雑誌と睨めっこしていた。




「敷金礼金もバカにならないなぁ〜…。実家に帰ろうかな」



千夏は賃貸雑誌を閉じると、天井を見上げた。




「…本当だったら私も翼と結婚していたはず。……そんな事くよくよ考えていても仕方ないんだけど…」



翼とはもう終わったんだから。




そう思い、息を吐いた。




「はぁ…。私も結婚したいな…」




あれから、他の人に恋をしようとした。

でも本気になれなかった。



人は人生の中で燃え上がる程の恋愛は、一度しか出来ないのかもしれない。


運命の人は1人しかいない。



だからその恋愛を手放してしまったら、もう二度と本気の恋愛なんて出来ない。


きっとそうなんだ。





千夏がそんな事を想い溜め息を吐くと、真弓から電話が掛かってきた。



「もしもし、どうしたの?今日は隼人さんと式場の下見に行ってるんじゃないの?喧嘩でもした?」


「違うよ!…持田さんがっ…」


「え?翼!?」




通話口から聞こえる真弓の声は震えている。


千夏は嫌な予感がした。
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