何度でも恋に落ちる
部屋のドアを開くと、1つだけあるベッドの上に沢山の包帯が巻かれている翼がいた。



翼は微風に揺れるカーテンの隙間から覗く窓の外を眺めている。




「…翼?」



名前を呼ばれた翼はゆっくりと顔を千夏に向けた。




「大丈夫なの?真弓が死んじゃうって言ってたから…重傷なのかと思った」


「かすり傷だけだよ。傷のわりに出血が酷かったから大袈裟に包帯巻かれてるけど。…隼人と橋本さんに上手く騙されちゃったんだね。…でも、心配してくれてありがとう」


「…っ!!…何よそれぇ…。なんで…翼、またこっちに来たの?」



翼は千夏に笑みを向けると、体をベッドに倒した。


千夏はベッドの横に歩み寄る。





「…翼?」

「約束しただろ。…必ず迎えに行くって。遅くなってごめんね……ちー」




“ちー”



翼の声でその言葉を聞いた千夏は口元を押さえて涙を流した。




ずっとずっと聞きたかった声。

ずっとずっと呼んで欲しかった名前。




小さく嗚咽する千夏を見た翼は優しく微笑んだ。




「…俺、もしこのまま死んでも、ちーの事を幸せにしてくれる誰かとちーを祝福してやる、そんな存在になれればいいやって思った。

でも生きてるって事は、ちーを幸せにするのは俺だったからなんだって思ったよ」




涙を流しながらコクコクと首を縦に振る千夏。





「…俺が今、ちーを抱き締めたら…ちーも抱き締め返してくれる?まだ間に合う?」


「当たり前でしょ?私…ずっと翼を待ってたんだよ…」



翼は微笑むと、千夏に体を向けて両腕を広げた。




「ちー、おいで」



千夏は翼に抱きつくと声をあげて泣いた。



こんなに幸せな泣き方をするのは生まれて初めてだと思った。
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