物理に恋して



長文を読み終えた時、机の端にポストイットが貼ってあるのが見えた。


“ノートのお礼ジュースでいいよ”


顔をあげると隣で委員長が、プリントを解いているのが見えた。
いつになく真剣な表情に思わず見とれる。


“自販機でもいい?”


ポストイットをペンに貼り付けると、そっと委員長の方へ滑らせた。


「行こっか」


間もなく委員長の穏やかな声がして、わたしたちは立ち上がった。



ガコンガコン


「あ、わたし奢る!」


中庭に出ると、前を歩いていた委員長がすでに自販機に手を突っ込んでいるのが見えた。


「いいよ、はい。」


そう言ってわたしの手に収められる冷たいミルクティ。


「でも、ノートのお礼!」

「あはは、あれは休憩しようって意味だよ」


委員長はジュースを振りながら笑う。


「でも、ノートのお礼…」


わたしは100円玉を2枚、差し出した。


「じゃ次は秋野が奢って」


そう言って苦笑する委員長は、絶対に100円玉を受け取らなかった。
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