物理に恋して
「とりあえず、家、送ってくから。」

わたしがのんきに返信しようとしていると。
先生はそう言って近くにあったパーカーをつかみ、車のキーをポケットから取り出す。
やけにぴりぴりしてる先生に驚く。

「ま、まって、」

立ち上がろうとしたら、しびれた足がもつれて、転んだ。

「きゃ、…いたっ」

もう、何やってるんだろ!

「おい。だいじょうぶか?」

「あし、がしびれて…いたた」

「立てる?」

「はい、いや、あの、家、誰もいないから」

しびれた足をこぶしでトントンたたきながら、必死に伝える。

「は?」

「今、みんな旅行いってて、うち誰もいなくて」

「おまえは?」

「花火、あるから」

先生はさらに怪訝な表情をして、わたしを覗き込む。

「いや、あの、毎年、花火地元で、友達と行ってるから」

「それで?」

「だから、わたしは花火あるから旅行には行かなくて」

「…」

「別に先生と行くためじゃなくって」

「…」

「いや、行きたかったけど…っ」

慌てるわたしに、先生はあきれたのか、表情が少しやわらかくなる。
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