風と今を抱きしめて……
 顔を見るなり真矢は昨日の怒りを思い出し拳をにぎりしめたが、課長の一言に気分は一転してしまった。


「今日から横浜支店の支店長の柳原大輔さんだ。ロス支店のやり手だ。皆、協力していこう」

 と言ったのだ。



「柳原大輔です。日本での営業は初めてですが。よろしく」

 クールなあいさつに、皆頭を下げる。


 その瞬間、大輔が真矢を見るが、同時にプルルルルーと電話が鳴った。

 「真矢さん、田口様が今日伺ってもいいですか?って」

 電話を取った奈緒美の声に、真矢は慌てて受話器を手にした。


 そのまま大輔は奥の部屋の、自分の席に向かっていった。



 その日は真矢宛ての来客が多く、田口と言うのは今年定年になり、夫婦で初の海外旅行を決め、メールも苦手と何度も窓口に夫婦で足を運んでいた。

 真矢はこの夫婦にあたったプランを考えるのが楽しくてたまらなかった。

 歳の事も考え添乗員付きのツアーを提案したが、団体行動が気になる事と、あまり飛行時間のかからない暖かい所が良いと希望があり、グアムプランを考えている。
 ホテルやオプションなど話したい事はたくさんある。
 ついつい時間がかかってしまう。

 しかし、夫婦は真矢の話を楽しそうに聞き旅行の計画を立てている、真矢の人をどこか安心させるような笑顔で、楽しそうに客と話す姿を支店長になったばかりの大輔は、どこか不満げに見ていた。


 その後も、ご婦人三人組のハワイ旅行、大学生がバリ島をネットから予約してきたが、初めての海外に不安を抱え来店。


 バタバタと半日終わってしまい、ランチルームに入ったのは、一時を過ぎていた。
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