風と今を抱きしめて……
 ユウは手早く夕食の支度を始めた。

 陸は、買ってもらたったお菓子のおまけのおもちゃを奈緒美に作らせていた。

 おまけの新幹線が出来上がると、ほぼ同時にユウの声響いた。


「ご飯できたわよ、手洗ってらっしゃい」


 テーブルには、美味しいそうなオムライスが並んでいる。

 陸のオムライスはやや小さ目で、ケチャップで書いた電車の絵と旗がたたっている。

 奈緒美のオムライスにはバラの絵、ユウのオムライスにはお城の絵。

 陸と奈緒美は、歓声を上げ席に着いた。


 奈緒美は、人並み外れたユウの絵の上手さの訳を後で知る事になる。



 陸の保育園の話を聞きながら、賑やかかに三人は食事を楽しんだ。



 食事が済むと奈緒美が後片付けをしている間に、ユウが陸を大騒ぎでお風呂に入れた。


 お風呂から上がると、慣れた手つきで着替えさせ、歯も磨いてやっている。

 なんだかんだと遊びながら、陸はユウの横でいつの間にか眠ってしまっていた。


 
 奈緒美はあまりにも手馴れているユウに、驚いた表情で二人の姿を見ていた。

 陸も「ママ」と言って困らせる事も無かった。


 ユウは陸をベッドに寝かし、リビングに戻ってきた。




 ユウが冷蔵庫を開け、ビールを二本と、さっき奈緒美が買い物かごに入れた期間限定チョコレートを手にした。

 二人は軽く缶を交わし、ビールを飲み始めた。


 ユウはピンクのパジャマにピンクのヘアーバンドをして、どこから見てもお姉だ…… 

 しかし、部屋の中は余計な物は無く片付いていて、オネェらしい小物など一切ない。

 しいて言うなら、いつも持っているキティちゃんのハンカチが数枚畳んでカウンターに置いてあるくらいだ…… 


「陸もたくましくなって来て大変。男の子って元気ね」

 ユウが、大変と言いながら嬉しそうな声を上げる。


「ねえ。陸と真矢さんて時々ここに来るの?」

 奈緒美が、辺りをぐるりと見回した。


「多分来たこと無いんじゃないかな? いつも、私がアパートに行っているからね……。陸が生まれた頃は、ほとんど真矢の所に泊まっていたわよ。夜泣きやら熱出したとか、真矢が不安になるからね」

 ユウは窓の外の明かりを優しい目で見ていた。


 真矢のアパートの方角だ…… 


 奈緒美はチョコレートの箱を開け、一粒口にいれた。


「ねえユウ。一つ聞いてもいい?」
< 85 / 116 >

この作品をシェア

pagetop