あなたの溺愛から逃れたい
「いつもそんなに落ち着きないのか?」

「ふ、普段はもっと冷静なつもりです。今は、その、つい」

「はは。そうなんだ」


崎本様はそう言って、また笑った。


無表情で喋りにくそうっていう印象だったけど、実際はそうじゃないのかな?



「では崎本様は、この旅行の目的は執筆の為の取材、ということですか?」

私がそう尋ねると、彼は「うーん」と小首を傾げ、

「そこまでは考えてない。最近煮詰まってたから、気分転換になるかなと思って。
旅行って、疲れるから普段は殆どしないし」

と答えた。


けれど、


「でもここへ来たのは正解だったかもな」


と続けられたので「何故ですか?」と私が問い掛けると。


「俺、基本的に人と喋るの面倒臭くて。今まで旅行とかでこういう旅館泊まっても、仲居さんとかに話し掛けられるの嫌だったんだよ。でも、あんたみたいな面白い仲居さんもいるんだなって分かったから」

面白い。喜んでいいのかいまいち分からないけれど、お客様が『良かった』と言ってくれているのだから嬉しいことなのだろう。


そして。



「四日間、よろしく頼むな」

崎本様がそう言ってくれたので、私も

「こちらこそ!」

と返した。
< 33 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop