あなたの溺愛から逃れたい
その日の夜。
お客様の夕食が終われば、後片付けをして一日の業務は終了となる。
他の仲居たちは、旅館の一室を寮とし、そこで寝泊まりしているのだけれど、私は、斎桜館の隣にある〝神山家〟に帰ることになる。と言っても、神山家と斎桜館は建物の構造上、繋がっているのだけれど。その為、家の造りは旅館と殆ど同じだ。
他の仲居たちは皆、部屋に戻ったはず。
私もそろそろ帰ろうと、ひと息吐きながら廊下を進んでいると、創太が向こう側から歩いてきた。
「あ。逢子さん、お疲れ様です」
「若旦那様。お疲れ様でした」
お互いにそんな挨拶をして、そのまますれ違う。
皆仕事を終えて、確実に周囲に誰もいない状況。きっと、付き合っていた頃だったら、少しお喋りをしたり、こっそりキスをしたりしていた……。
そういうことをもう出来ないのは分かってる。私たちは別れたんだ。そして、それを決めたのは他の誰でもない私なんだから。
それなのに、胸が痛む。
私は、昼間女将に言われた言葉を思い出す。
ーー『最初はその気なんてなくても、次第に好きになっていくことだってあるんだから』
そもそも崎本様が私のことなんて好きにならないだろうということは置いておいて、もし、私の気持ちが女将の言葉通りになったら?
私が、創太以外の人を好きになったら?
そうしたら、創太はどう思うの?
そんな風に考えてしまう。
何とも思われなかったら悲しい。だけど、それでこそ私は新しい恋に進めるのかもしれない。
私は思わず後ろに振り向いて、
「創太っ!」
と、彼の名前を呼んでしまった。
お客様の夕食が終われば、後片付けをして一日の業務は終了となる。
他の仲居たちは、旅館の一室を寮とし、そこで寝泊まりしているのだけれど、私は、斎桜館の隣にある〝神山家〟に帰ることになる。と言っても、神山家と斎桜館は建物の構造上、繋がっているのだけれど。その為、家の造りは旅館と殆ど同じだ。
他の仲居たちは皆、部屋に戻ったはず。
私もそろそろ帰ろうと、ひと息吐きながら廊下を進んでいると、創太が向こう側から歩いてきた。
「あ。逢子さん、お疲れ様です」
「若旦那様。お疲れ様でした」
お互いにそんな挨拶をして、そのまますれ違う。
皆仕事を終えて、確実に周囲に誰もいない状況。きっと、付き合っていた頃だったら、少しお喋りをしたり、こっそりキスをしたりしていた……。
そういうことをもう出来ないのは分かってる。私たちは別れたんだ。そして、それを決めたのは他の誰でもない私なんだから。
それなのに、胸が痛む。
私は、昼間女将に言われた言葉を思い出す。
ーー『最初はその気なんてなくても、次第に好きになっていくことだってあるんだから』
そもそも崎本様が私のことなんて好きにならないだろうということは置いておいて、もし、私の気持ちが女将の言葉通りになったら?
私が、創太以外の人を好きになったら?
そうしたら、創太はどう思うの?
そんな風に考えてしまう。
何とも思われなかったら悲しい。だけど、それでこそ私は新しい恋に進めるのかもしれない。
私は思わず後ろに振り向いて、
「創太っ!」
と、彼の名前を呼んでしまった。