その男、極上につき、厳重警戒せよ

結局私は、母が用意してくれた場所で、小さな反抗をしていたにすぎないんだ。
全てが明らかになって分かったことは、私がただ、みんなから守られていたということだけ。

私は一歩前に出て、遠田社長に向きなおる。落ちくぼんだ瞳で、彼は私をその目に映す。

前に出て、彼と言葉をかわす。
たったこれだけのことをする勇気がなくて、遠回りしてしまった。


「……社長」

「ん?」

「私、仕事を辞めようと思います」

「どうしてだい? 護のことを気にしているなら、ちゃんと説明するから心配することはない」

「そうじゃありません。私、本当は受付業務なんて好きじゃないんです。母が喜ぶから、会社に受かったから。そんな成り行きで今まで生きてきてしまいました。でもそうじゃなくて。私は私のために、生きてみたくなったんです」

「静乃さん」


驚いたような社長の声に、私は思わず笑ってしまう。


「……初めて名前、呼んでくれましたね。父じゃなかったんだとしても、嬉しいです」

「そんな、……名前くらい何度だって」

「遠田社長、今までありがとうございました。三日後、社に戻ったら、退職願を出します」


ぺこりと頭を下げて、社長は絶句して黙ってしまった。
深山さんが私の肩をポンと叩いて「……受付業務に戻ってくれるかな」と柔らかい声で言った。
この場からぬけだせるように配慮してくれたんだなって思ったらありがたくて、頭を下げて部屋を出る。

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