その男、極上につき、厳重警戒せよ
「少しは効いてる?」
「さあどうでしょう」
「つれないな。まあいい。落とし甲斐があるってもんだ。さ、行くよ」
「深山さん、でも私、こんな恰好なんですけど」
今の彼女はスカートとニット姿だ。髪は仕事をしていた時のまま、結い上げてあるが、装飾品などは何もなく、普段着と言える恰好だろう。
「構わないよ。ドレスコートのある店じゃない」
「でも」
「気になるなら場所を変えるよ? その場合、俺の部屋一択だけど、いい?」
片目をつぶって見せれば、彼女の顔が一気に真っ赤に染まる。
そうそう、この反応。つつけばすぐに反応して赤くなったり膨れたり。
懐かしさとともにこみ上げる喜びは、俺をどんどん調子に乗せる。
「や、や、や、ダメです」
「なら大人しくついておいで」
彼女の手首をつかんで、ぐいと引き寄せる。硬直する彼女に、少しだけ意地悪く思う。
戸惑うなら戸惑えばいい。
俺だって待つのを受け入れたんだから、君も少しは俺に振り回されればいいんだ。
これから、君が驚くようなスピードで俺のもとに引き寄せる。
「行こう、静乃」
名前を呼ばれて、彼女は驚いたように目を見開いて、言葉を無くして俯いた。
でも隠した口角が上を向いているのを俺は目の端でちゃんと確認した。
覚えているよ、君が一番望んでいたこと。
誰かに愛情をこめて名前を呼んで欲しいと、切に願っていたこと。
願わくば、俺に呼ばれることで、君が嬉しいと思ってくれますように。
【Fin.】


