その男、極上につき、厳重警戒せよ

えっ、なにこれ。ストーカー?
一体いつから待たれていたの?

考えるだけで怖くて、足がすくんでくる。


「あのっ、私のこと、待ってたんですか?」

「ああ。……あ、定時の時間を狙ってきただけだよ。別に朝から待ってたわけじゃないからな」


いや、それにしたって、私にはあなたに待たれる理由が全く分からないんですけど。

大柄な彼に対して私は小さい。歩幅が違い過ぎて、さっそくよろけて転びそうになる。


「案外ふらふらしてるんだな。なんならかついでやろうか」

「け、結構ですっ」


そんな言い合いに気を取られていたら、いつの間にか私が一緒に行くことは決定事項となってしまったらしい。彼はタクシーを停め、私を先に乗せようとする。

これってやばいんじゃない?
拉致られるの?

見知らぬ人だったら大声で叫ぶところだ。だけど、会社として考えるならば、仕事上の付き合いのある会社の社長だ。
身元は分かっているんだし、そんなことをしたら私のほうが怒られる?

悩んでいるうちに、彼はどんどん自分のペースで話を進めてしまう。


「ほら奥にはいって。……銀前坂の『ミヤマ』まで出して」と運転手さんに告げ、私を押し込むようにして乗せてしまった。

「あ、あの」

「すぐ着くよ」


そして気が付けば、私は、ビル群の中にありながらしっかり日本庭園を備えた、人生で一度も入ったことのないような日本料理の店へと連れてこられていたのだ。

< 8 / 77 >

この作品をシェア

pagetop