その男、極上につき、厳重警戒せよ


 ビジネス街の銀前坂にあり、商談で使われることの多い日本料亭『ミヤマ』には個室がいっぱい備えられている。私は深山さんと一緒にそこの数ある個室の中の一室にいた。名前が一緒だけど、なにか関連があるのかなって思いながら、彼がなにかを言い出すのをちらちらと伺う。


「一体何が起こってるんだろうって顔だな」


なんといっても会社の制服のままだ。こんなお店に入ったらまずいんじゃないかなと居心地が悪く、私は肩をすぼめて小さくなっている。


「まさにそう思ってます。あの、なんで、私が。……ああもう、何から聞いたらいいのか分かりません」


完全に脳内パニックだ。
そもそも受付でひと言話しただけの私が拉致られることも訳も分からないのに。

何この高級そうなお店。来たことないよ。
こんなイケメンと一緒にいるだけでもテンパっているのに、更に食べるのに作法がありそうなところ、落ち着けるわけないじゃない。


「あの、……お知り合いじゃないですよね、私たち」

「名前は知ってるな。ああ、先に言っておくけど、勘違いするなよ。別に君を口説く気はサラサラないから」


カチンとくる物言いをされて、無意識にムッとしてしまったらしい。深山さんはクスリと笑って、眉間を指さした。


「ここにしわが出来てるよ。割と感情が顔に出るね、咲坂さん」

「だって、……失礼じゃないですか。無理やり連れてきて、いきなり勘違いするなとか」


ものすごく悔しく感じるのは、もしかして……と少しでも思ってしまったことだ。
こんなイケメンが私のことを気に入るはずなんてないのに。恥ずかしい。もう帰りたい。

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