その男
「ねえ、三十過ぎて童貞の男ってどう思う?」
「どうって?」
「知り合いで童貞男を好きになっちゃった子がいるのよ。女を口説くことができない男なんて、わたしはまっぴらごめんだわ」
賢一がタバコに火をつけるのを見て、わたしも一本頂戴、と陽子は手を伸ばす。
新しいタバコを取り出そうとうする賢一の手を遮る。
「今吸っているのを頂戴」
賢一は微かに口元だけで笑うと、加えたタバコを陽子の口に加えさせた。
メンソールの煙をゆっくりと肺に入れる。
「陽子さんは家では吸わないんだっけ?」
「ここでこうやってケンちゃんにもらって吸うのがいいのよ」
結婚してからタバコを止めた。
タバコの煙はゆるりとbar全体に流れていく。