花歌う、君の空。
第1章

やっと、見つけた。



東京の街は極彩色。
昼だろうが夜だろうが関係ない。ギラギラ、チカチカと鮮やかに光る。

雑踏に混じって、テレビジョンから聴こえるのは、あの淡い歌声。


思わず足を止めた。



「ん?どうしたの菜花(ナノカ)」


隣を歩いていた幼馴染の梨奈(リナ)が、スクランブル交差点のど真ん中で急に立ち止まった私を怪訝そうに見つめるが、まもなくしてその視線の先の街頭ビジョンに映された映像に気付き、無言で納得した。


梨奈は慣れてるからよく知っていた。
こういう時の私は、何を話しかけたとしても無反応か、虚ろな返事を返すばかりだ。


まるで催眠術に掛かったかのように、意識ごとその歌声に惹き込まれてしまうのだ。恐ろしいくらいに。


その淡い歌声が止むと、私たちはようやくまた歩きはじめた。


「もー、いつか絶対 菜花の高梨 湊オタクのせいで遅刻するよ」

「えへへ、だって、体が反応しちゃうんだもん。なんか、こう……あの声と歌詞に全身を支配されちゃうっていうか、ね?」

「まぁ別に私も高梨 湊は好きだけどね?イケメンだし」

「ちょっと待って、聞き捨てならない。湊くんの魅力は顔だけじゃないんだよ!?」


高梨 湊(タカナシミナト)。今話題の新人アーティスト。


きっかけ今年3月頃、彼がなんとなく動画サイトに投稿したアコースティックギターの弾き語り動画がSNSでたちまち話題の的となったことだ。

そこからはもうトントン拍子で、大手レコード会社に声を掛けられメジャーデビュー。

デビューシングルである「Dear flower」は初週20万を記録する大ヒット。

加えて申し分なく端麗な容姿が世の女子を虜にして、今や10~20代で知らない人はほとんど居ないと言っても過言ではない。


実際、私もその歌声に魅了されたひとりだ。



────ただ、私にとって。いや私たちにとって彼は、ただそれだけの存在じゃない。



「そんな好きなら、話しかけたらいいじゃない。同じ校内に居るんだから」

「……………簡単に言わないで」




そう、彼は同じ高校に通う、後輩なのだ。


とは言え、私は3年生で彼は1年生でしかも特進科。だからフロアも棟も違うからまるで接点がない。見かけることはあっても、会話をしたことなんて勿論ないし、目が合ったことすらない。

< 2 / 27 >

この作品をシェア

pagetop