汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
第三章 旅立
1990年10月

高校を無事卒業した龍二は地元企業に就職し、遊びで中学生の頃から始めていたバンド活動も学生時代とは違い本格的なものになりつつあった。

精神論や反戦ソング、政治色の強い歌詞を唄うロックバンドだったがバブル経済の日本ではあまりウケは良くなかったが根強いファンもいた。

そのバブル経済が龍二をも力強くさせた。
就職した会社を一年で退職、若干20歳で独立するというチャンスに恵まれた。
足立区にある個人会社からナンバーを借りトラック一台を償却で買い、葛飾区にある中堅会社の孫受傭車として全国を走り回った。
一台から始めた運送業は二年目が終わる頃には七台へと増やしていた。

「社長、明日のライヴのリハだけど15時からだって」
そう話すのは高校時代の同級生、高橋達也だった。彼はバンドも一緒にやり龍二の始めた運送会社の運転手兼番頭だった。

「いいよ、社長なんて言わなくて、昔からダチなんだからさ」
「何言ってんだよ、運転手達に示しがつかんべ」
達也の言うことはもっともだった。
従業員はすべて年上であり若きし頃は猛者と呼ばれた連中だった。
ナンバーを借りている会社の社長が元構成員で、同じ組織から堅気になった人間を龍二の会社が受入働かせていた。
その為、ナメて掛かる従業員もいたが達也はそれを遺憾に思い従業員の一人で一番年配の越中忍を懐柔しまとめていた。

1992年12月

そして順調な中、龍二は一緒に暮らしていた美子と結婚し娘をもうけた。
娘には亜希と名付け公私共に絶頂にあったが、その絶頂期も長くは続かなかった。

バブル経済崩壊…
その余波は弱小企業である龍二の会社をも襲った。
ナンバーを借受ている親会社が銀行支払の滞りにより差し押さえとなり龍二の会社のトラックも差し押さえ対象となった。
そして追い撃ちをかけるように売上も親会社から遅延が続き遂に親会社社長が夜逃げ、売上も完全に滞った。
当然龍二も支払が滞り、昨日の友は今日の敵とばかりに毎日督促を受けていた。
三千万円の不払いはトラックを売っても追い付かなかったが、龍二は金作に東奔西走し会社は畳んだものの粘り強く話し合い弁護士の助力を経て残金二千万円を分割で返済することとなった。
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