汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
学校に母親が呼び出され龍二を引き渡す時が来た。
すると、突然浜島は龍二の母親の前で土下座した。そして、
「廣岡さん、申し訳ありません、大切な息子さんを殴り怪我をさせました、如何様な処分も甘んじて受けます、どうかどうかお許し下さい」
母親は目に涙を浮かべて、語りかけるように浜島に手をかけ、
「先生、頭を上げて下さい、龍二の教育をどこで間違えたんでしょうかね、頭の良い優しい子だったんですが今は違います、それをきちんと教えて下さい…
それにこんな殴り方じゃ手緩い、もっともっと殴り商魂叩き直して下さい!」
浜島もまた目に涙を浮かべ、驚きと共に感心していた。
まだまだこんな親もいるんだと…命に変えても龍二を叩き直すと誓っていた。
「廣岡さん、ありがとうございます、必ず卒業する暁には答えを出してみせます」
「よろしくお願い致します」

龍二は黙って聞いていた。黙っていたと言うより言葉が詰まり何も言えなかった。
そして外はいつの間にか春の嵐も静まり晴れ間を覗かせていた。

その後、浜島の手を焼くことを何度となく繰り返す龍二だったが、浜島だけには常に本当のことを打ち明けていた。
仲間とライヴに行くので早退したい、と言えば早退させた…
彼女とデートだから早退したい、と言えば早退させた…
こんなことは何度もあったが龍二は単位を落とすようなことはなかった。

そして、修学旅行に酒と煙草を持っていき浜島にサントリーオールドのボトル一本を渡し見逃して貰ったり…
また、旅先で地元の不良や地方から来た不良達と喧嘩をし騒ぎになったが揉み消したりもした…

そして、高校を後二ヶ月で卒業する正月、就職も決まり一息ついていた龍二は北海道にいた。
六年前から始まったストーリーは確実に前進し今は何をすべきか決まりつつある。
日本最北端宗谷岬に立った龍二は、あの6年前、男鹿で書いた志の言葉を刻んでいた。

北の大地に吹く凍てつく風を受け止めながら、
「今までは序章でこれからが本当の始まりなのかな」
龍二はそう思い今更ながら浜島の素晴らしさに感慨深く思っていた。
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