汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
第四章 生還
2002年3月

暗闇の中をさ迷っていた。
何も見えない、何も聞こえない闇の世界をただ手探りで壁を伝うように歩き続けた。
しばらくすると、微かに声が聞こえる。
「龍二こっちだぞ」
「いや違う、龍二こっちに来い」と…
小さいがハッキリと聞こえてきた。
耳をこらすと、それは右から親や兄弟、友人達の声が。
左から亡くなったはずの祖父母の声、やはり亡くなった友人や知人の声が聞こえた。
と、その時、入学式で共に停学になり高校の頃に事故で亡くなったはずの友人である植田が龍二の前に現れ手を取り歩き始めた。
「龍二、もう大丈夫、ここから出よう」
龍二は声出そうとしたが出なかった。
植田に引っ張られるように足を進めると、遥か先にぼんやりと赤に輝く円形の光りが点っている。
それは歩くスピードより早くこちらに近付いてくるのが分かる。
後少し…後少しで暗闇から抜け出せる…
そう思った瞬間、二人の前に突然、達也が現れた。
「龍二駄目だ!一緒に行ったら終わりだ!植田頼む、龍二を連れて行かないでくれ!龍二を…龍二をまだ連れて逝かないでくれ!」
達也は必死に哀願していた。
植田は振り払おうと手を左右に動かし妨げようとしたが、掴み掛かった達也の必死な形相に植田は振り払うのを止めやがて龍二の手を離し寂しいそうな目で二人を見つめていたが、やがて無言で光りに向かい消えていった。
その瞬間、我に帰った龍二は病院のベッドの上で点滴を打たれた姿で横たわっていた。
傍らには達也が目を赤く腫らし龍二を見つめていた。
< 15 / 24 >

この作品をシェア

pagetop