ホットジェル
ホットジェル


お風呂上がりにすぐ、ホットジェルを塗るのが日課だ。朝のくるぶしから、膝の関節までマッサージする。そうするとこれ以上ないくらい暖かくなって、汗も出る。冷え性の私は冬になると、足を折りたたんで自分の体温で温めていたからだ。

快眠。なのに物足りない。
物足りなさを感じたのはいつだったか。

身体は暑い、秋口の夜は冷えるというのにキャミソール一枚、短パン一枚にした。

ベランダに夜風を辺りに行く。涼しい風が首筋を撫でて行くと同時に鼻をかすめる煙のにおい。

「あ、タバコいやですか」

「いや、べつに…」

お隣さんの宮下さんだった。スーツ以外見るのは初めてだった。いつもオールバックをきちんとスプレーで固めて、黒縁メガネにきっちりスーツを着こなす人。

それが、半端丈の紺色のジャージによれたTシャツだ。目の下はクマができているし、水滴が滴っている髪はまっすぐ下ろされている。

「ふーーーん、色っぽいね」

私を観察したみたいな流し目は不快ではなかった。
欲情なんか皆無な顔だった。
その言葉はやけに陳腐に響く。
むしろ、あんたが色っぽいって思った。だってこの姿を見るのは彼女だけでしょう、と。

「それはどうも。夜風寒くないんですか?」

「それはこっちが聞きたいんだけど」

はは、と乾いた笑いが出た。
恥ずかしがりもせず、上着も着ないでいる自分は枯れきってる。

「ホットジェル塗ったんですよ。熱すぎて、冷ましてんです」

「触っても良い?」


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