ホットジェル
いい、って言う前に腕をあけ渡してた。ガラスモノのように優しく腕を取られた。肩から手先まで一通りを視線が流れた。少しだけ、呼吸が止まった。彼の手のひらが手首を包み込んだ、知っているより大きくて皮が固かった。
手首から上にスライドさせた。
「なんだ、触っても熱くないんだ」
私だけが熱いことを知っている。
「私は、熱いんですけどね」
「ちょっと残念」
宮下さんはタバコの火を消して、ニッと微笑んだ。
「今度会ったら塗ってくんない?そ、れ」
***
次の日からというものの、残業が続きスーツのまま倒れこむ。
寒いとか考える暇もなかった。溺れるように眠るだけ。
だから最近、感情は贅沢品なのかもしれないと思うようになった。
意味なんて考える暇もないくらい働き詰めているからだ。
ベランダに出たのは少しだけ仕事が落ち着いて一呼吸いれることができるようになってからだった。
今日は月も見えない曇り空が夜になっても続いていた。キャミソールにパーカーを羽織って、短パンを履いた。
「それって俺への牽制?」
指さされた先のパーカーは前着ていなかったからだろう。その顔は飄々としてムカついた。
「嘘つきですね」
「いや、嘘はついてないけど。ちゃんとやらしい目で見てたよ」
ちゃんと、ってどう意味だ。
今日は宮下さんはお風呂上がりではないようで、髪の毛は乾いていてゆるくウエーブがかかっていた。それがいつもの格好らしい。
「宮下さん、ホットジェル塗るんでしたっけ」
「そうそう、秋月さんに塗って欲しくて」
「だから、今から俺の部屋に来て」
呼吸が止まった。