好きって言って、その唇で。



「恋人になったんだから、触れても構わないよね?」

「恋人!?付き合うなんて一言も言ってない……!」


片桐さんの手を振り解こうともがくけど、スマートな動作で手を引かれて彼の腕の中にダイブした。


「僕は君が好きだ。愛してる。そして君も僕を好きだと言ってくれた。これはもう、恋人になるしかないじゃないか」


髪の毛をひと房すくわれて、耳元に唇を寄せられた。囁かれた耳から体温が上がるのを感じる。


「こ、言葉の綾ですから!」

「難しい日本語はわからないよ」

「嘘つけ!」


手首が解放されたかと思えば、腰に腕が回ってきて完全に逃げる機会を奪われた。

恥ずかしさでうつむくと片桐さんの胸に顔をうずめる形になってしまって、慌てて離れようと片桐さんの胸を押すけどそのたくましい肉体はピクリとも動くことはない。


「ねえ、もう一度好きって言って」

「い、嫌です」

「奈々子?」


拒絶の言葉を吐き出すと罰だと言わんばかりにピッタリ密着してきた。花の香りが鼻腔をくすぐって、彼の体温が私の心臓を握り締めてくる。


「言わないならこのままその可愛い唇を食べてしまうよ」


指先で唇をなぞられて、脳みそが沸騰しそうになる。キャパオーバー。


「はい、時間切れ。」


何も言えなくなってフリーズしてしまった私を見て、片桐さんは微笑んで顔を近づけてくる。

私の唇に自分のそれを重ねて、からかうように下唇をぺろりと舌先で舐められた。


「素直じゃない君も大好きだよ」


24歳、初めてのキスだった。



fin.
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