不器用王子の甘い誘惑
 俺には忘れられない女の子がいる。

 今の俺は背が伸びて、体もがっしりした。
 卒業した大学名や社長の息子という肩書きも相まって、それなりに女の子にキャーキャー言われてる自覚はある。

 でも全ては忘れられないあの子のため。
 会った時に胸を張れるように。
 あの子に俺を選んでもらえるように。

 俺は君の王子様になれるだろうか。



「どんな女性に言い寄られても君しか目に入らないよ。
 いつでも俺の心をつかんで離さないのは君なんだ。」

 君と練習なんて……。
 紗良のこと好きだって言えたらどんなにいいか。
 それなのに君は残酷なことを言うんだ。



「松田さんが?嘘!片思いなんですか?」

「シー。内緒だよ。
 本人は全く俺のことなんて見ていないんだ。」

 俺のこと忘れてるんだろうな。
 俺は片時も忘れたことないのに。

「告白したら絶対にOKですって!
 松田さんかっこいいもん。」

 明るい、顔いっぱいの笑顔を向けられて心が踊った。
 本人にかっこいいとか絶対にOKとか言われるならいけるかな。

「この歳で恥ずかしいけど……口説いたりできるかどうか……。」

「それなら……。」

「それなら?」

「練習しますか?」

「練習??」

 聞き直したら真っ赤な顔をするもんだから、なんだか可愛くて。
 だからって安請け合いしなきゃ良かった。

「冗談です。なんでもないです。」

「何が?気になるじゃないか。」

「………私が練習台になりましょうか?」

 真っ赤な顔をして、俯き加減な紗良の申し出を「ありがとう」と言うしかあの時の俺には……。

 今は考えなしだったかなと思う気持ちと、練習と称して会えるから嬉しい気持ちの半々かな。

 ただ………練習台になるなんて、俺に気がないからこそ出来るのかもと思うとモヤモヤしないでもない。

 もっとスマートに現れて感動の再会が出来ると勝手に思い込んでいたんだなぁと年甲斐もなく夢見心地だったのが敗因かもしれない。

 今さら反省しても遅いから、なんとか紗良を振り向かせてみせる。





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