不器用王子の甘い誘惑
17.やるせない
 白い天井を見て、うちとは違うなぁとぼんやり思った。

 カーテンの向こう側が騒がしくて目が覚めた。
 寝ていたみたいだ。

「だから、爽助は今まで誰にも特別なことしなかったから良かったのよ。」

 女の人の声で爽助という名前が呼ばれてドキリとした。
 松田……爽助さん。

「分かってる。今回の紗良の件で………。」

「ほら。紗良なんて名前で呼んで。」

「麗華こそ。」

 麗華……さん?

 清水麗華さん??
 みんなが麗華様と呼ぶくらいに綺麗で美しくて………強くてしなやかな美しさ?

 名前で呼び合うほど仲がいいんだと思うとチクリと胸が痛んだ。
 麗華様が松田さんの想い人………。

「私はフィアンセだからいいの。
 みんな周知の事実よ。」

 フィアンセ……婚約者?
 嘘………好きな人がって。
 それとも婚約者に片思い?

 あぁ。どちらにしても私とは世界が違う人。
 麗華さんは我が社シープの専務か誰かのお嬢さん。

 コネ入社だなんて言わせないくらいに仕事が出来る。
 モデルのような体型で華やかで松田さんと並ぶときっとお似合い………。

 なーんだ。
 婚約者なら練習も何も……。


 話が済んだみたいで誰かが医務室を出て行った。
 そして誰かがこちらに来る気配がして、目をつぶった。

 寝たふりなんて得意じゃないから、早く!行って!お願い!!

 手が大きな手で包まれて「紗良、ごめんな」とだけ口にしたのは松田さんで、声と手の大きさで分かった。
 触れたぬくもりは温かくて、そして離れた寂しさは胸を締め付けた。

 私は……。

 何か言えるわけもなくて、目を閉じたまま松田さんが去っていくのを待った。



 松田さんが居なくなると天井をぼんやり見つめた。
 熱でぼんやりする頭は改めて夢の世界へと入っていった。

 あぁ。夢だったんだ。
 おばあちゃん本当だったよ。
 清く正しく生きていればお天道様が見ててくれるって。

 だから私に叶わない夢を見せてくれたんだね。
 ずっとずっと憧れていた夢を………。
 叶わないから夢なんだね。





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