不器用王子の甘い誘惑
23.人が来ない場所に呼び出して
 朝起きるとひどい顔。

 蒸しタオルを顔に乗せて、ベッドにもたれた。
 頭をベッドへと預けてそのまま天を仰ぐ。
 程よい温かさが心地いい。

 深夜の帰宅になった昨日、松田さんの車でうたた寝なんて失態を犯して、泣き顔どころか寝顔まで見られたんだと改めて思い出すと恥ずかしくて仕方ない。

 しかも誰にも知られたくないような男関係まで知られて、ある意味怖いものなしだよ。

 それなのに心はそんなにダメージを受けていないから不思議だ。

 帰り際にも思ったこと。
 振り回されているのに話を聞いてもらって私が癒されていた。

 大きなあくびを1つしてから、会社の準備を急いだ。
 今日までにやりたい資料作成がたくさんある。
 気合いを入れて片付けなければ。



 出社すると松田さんの席には鞄があって、既にどこかで打ち合わせか何かしているみたいだ。
 さすがに朝一で顔を合わせるのは緊張しそうだったから少しだけホッとした。

 早瀬主任に「おはようございます」と挨拶を済ませ、朝の仕事へ取り掛かった。

 しばらくしてあくびを噛み殺して席にいると眠そうな松田さんが戻って席に着いた。
 早瀬主任が私と松田さんを交互に見比べて意味ありげに微笑んで居た堪れない。

 眠そうな松田さんが「おはよ」と呟いて私は緊張気味に「おはようございます」と返した。

 早瀬主任が変わっているだけで、他の人は眠そうな松田さんに気づいて「王子様の寝ぼけ顔なんて貴重!!」と騒いでいた。
 もちろん本人には気づかれないように。

 それなのに早瀬主任は……早瀬主任までキャッキャッ言っていたら気持ち悪いか。


 今日は資料作りや、あとは松田さんの関係の仕事が山積みで嫌でも膝をつき合わせて話さないといけない。

 資料は机に置かれ、その上にもまた資料が置かれた。
 その資料にはメモがクリップで留めてあった。

『あとで第3資料室の方まで来て』

 第3資料室なんて遠いところ………。
 訝る視線を送ろうにも、もう姿はなくて仕方なく席を立った。



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