不器用王子の甘い誘惑
24.手を引いた犯人
 大池さんがまさかあんなことを言うなんて思わなかった。
 きっと海外赴任へ行くことは嬉しいけど少し不安で、そのせいなんだろうな。

 先に戻った大池さんと戻る時間が重ならないように時間を潰してから帰ろうと窓の外を眺める。

 松田さんのこと、男の人でもあんな風に思うんだなぁ。
 イケメンなら何しても許されるわけないけど……松田さんはもっと遊んでもいいと思う。

 知らないだけで遊んでるかもしれないけどさ。
 お昼休みはいつも女の人に囲まれてるし。

 遊ぶも何も……私となんて練習してないで、片思いの人を食事に誘えばきっと松田さんの恋は成就する。

 それなのにまだ成就しないでっていう気持ちが心の片隅にあって、やっぱり自分は狡い大人の部分しか残っていないなぁって嫌になった。

 もう少しだけ。
 松田さんとの時間を私にください。

 本当の王子様と過ごすお姫様気分をもう少しだけ。


 もう戻ろうかなと歩を進めた。

 松田さんの恋を応援するって言ったのも本当の気持ち。
 応援するから、応援するから、だからもう少しだけ待ってください。



 不意に手を引かれ、会議室に引き込まれた。
 通路には「キャッ」という小さな声だけを残して。

「仕事で聞きたいことが溜まってるので会議室に詰めますと早瀬主任に伝えておいた。」

 驚かした犯人は松田さん。
 机の上には確かにたくさんの資料にノートパソコン。

「天野さんが見当たらないから俺1人で運んだんだよ?」

 2人分のパソコンが置かれて、確かにこの量をどうやって………。
 というより、この状況を早くどうにかしなくちゃ!!

 引き込まれた体はそのまま松田さんの腕の中で……。

「あの、この体勢の必要あります?」

「だってちょっとは褒めてよ。
 俺、頑張ったんだよ?」

「はい。ありがとうございました?」

「そうじゃなくて、ちゃんと褒めて?
 他にも落ち込むことがあったんだ。」

 抱きしめるというよりも、もたれかかっているみたいに今の松田さんは力ない感じだった。
 下げた頭は紗良の肩の辺にあって、本当に落ち込んでいるみたいに見える。

 体を預ける松田さんはなんだかちょっと子どもみたいで可愛かった。

 だからつい………。




< 47 / 89 >

この作品をシェア

pagetop