不器用王子の甘い誘惑
 王子様なんていないって言う紗良に話すべきなのかどうか迷っていたけれど………。
 紗良との始まりはやっぱり、あの時からだと思うから……。


 麗華には容赦なく「すぐにでも気持ちを言えばいいのに」と言われた。
 最近では亘にまで「全部話せばいいのに」と呆れられた。

 きっと俺だって再会してすぐなら自然に話せたと思うし、キスだって想いに任せて軽く出来たと思う。
 言えなくなって、それでも側にいて、想いが募るばかりで……。

 それなのに『王子様』に対しての紗良の気持ちは分からない。
 何より紗良の思い出の『こうくん』を崩してしまっていいのか思い悩んだ。

 それでも話そうと決めた。
 全て話して『こうくん』を馬鹿げた空想だと思うのなら、それでいい。

 俺のことも信じてくれなくなってしまったら悲しいけど、紗良との信頼関係はこんなことで壊れないって信じてる。

『こうくん』の役目は終わったよと解放してあげたい。

 それに………俺のこの痛いほどの思いを少しは分からせてやりたいっていう捻くれた思いも多少はあるかもな。




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