夏の幻影 ~逢ヶ魔刻の出逢い~
 会社経営は波に乗り大企業と呼ばれ、将来性も有望と言われる程にまで一代で築き上げた。

 富も地位も欲しいまま。金で簡単に動いてくれる議員も数知れず、何の不自由もない生活にどっぷり浸っていたのは60歳になるかならないかの頃。

 上層部連中の仲間入りを果たし、秘密の会合などに出入りをするようになった時に、あるウワサを聞いた。

『現実に不老不死の体になる方法があるそうですよ』

 老い先短い者が大半を占める会合、不気味な研究まで密かに行っている者までいるとヒソヒソ話が耳に流れてくる現状で、誰もが夢を見てしまう『不老不死』の身体。

 彼もその話に大変興味を持った一人だった。

『ある人に会ってお願いをすればしてもらえるそうだが、まぁ会えるのは奇跡だね』

 どんな奴かも判らない。全く情報のない中で不老不死を授かるためにその人物を捜し出すには不可能だという。

 ほんの少しの夢を与える夢物語以外のなにものでもないウワサ話。

 そう思っていたはずだったのに・・・。

 ある日、目前に青年がいた。

 外界から切り離されたような錯覚を感じさせる不思議さを持つ、若い青年だった。

 どうやって現れたのかも判らない。突然現れたのか、それとも普通に歩いて通りがかりだったのかもしれない。

 とにかく一目見て何かを感じ、青年も彼の視線に少々驚き、微笑んだ。

「イノチヲサズケヨウ」

 青年の手のひらから出現した輝く球体が身体の中に入っていった。
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