淫雨
虹花(にじか)はわたしの双子の姉だ。


そして、目の前の彼、わたしの部下の、三崎一馬の妻になった。


だから彼とは上司と部下で、義理の妹と兄だ。


「……知らないけど」

「ならいいじゃん、付き合ってよ。切ないこと言わないでさ」


嘘つき、とは思わない。彼はとんでもなく甘えたがりだし寂しがり屋だ。


だから、彼が愛する相手以外。 つまりわたしに、こんな睦言のような台詞を投げかけるのも決して嘘でも冗談でもなく、本気の本音に他ならない。


その事実の質の悪さをわたしは知っているが受け流して見て見ぬフリをするのも随分と上手くなってしまった。


憎たらしさが湧くべき場所に満ちたのは愛しさで、悔しいなんて思える余裕もない。


「あのね、虹花は王林が好きなの。真っ赤なリンゴはそんなになんだよ」

「そうなの? でも青いだけでリンゴには変わりないでしょう?」





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