aventure
波瑠が桜智の部屋に行くと
桜智は泣きながらドアを開けて波瑠にいきなりしがみついた。

余程寂しかったに違いなかった。

「桜智…もう親父は待ってても来ない。

それを伝えに来た。」

今の桜智にそんなことを言うのは気が引けたが
桜智にも現実を見て欲しかった。

「最初から桜智の身体だけが目当てだったんだ。

愛なんてあり得ないよ。

そんなことくらいわかってただろ?」

桜智は何も言わずにただ波瑠にしがみついていた。

ほんのりと甘いシャンプーの香りが
波瑠の心をくすぐった。

「そんな男が自分の親父だってことが恥ずかしいけど
女を金で買うような男なんてみんなそんなもんだよ。

ま、桜智も金目当てで近づいたんだろうから
両成敗ってトコかな?

でも大人である親父が、桜智みたいな若い女を金で好きにしてたってのは人としてどうかと思う。」

それでも桜智はまだ鴻を信じているようで
波瑠の手を解いて泣きながら反論する。

「そんな風に言わないで。

鴻さんとは最初はそうでも本当に愛しあってた。

鴻さんだって…」

波瑠はまだ鴻を信じてる桜智に腹が立った。

滑稽で可哀想にも思えた。

「それが息子のオレに言うこと?

もっと大人になったら桜智はきっと後悔するよ。

バカだったって分かるはずだ。」

波瑠はそう言ってもう一度桜智を抱きしめた。

桜智は離れようとしたが
波瑠はその手に力を入れて離さなかった。

「せ、先輩、苦しい…」

「桜智…オレがそばに居てやる。

だから逃げるな。」

空っぽだった桜智の心に少しだけ何が温かいものが注がれたような気がした。

桜智は波瑠の服の背中をぎゅっと掴んで
波瑠の胸に顔を埋めた。





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