コガレル ~恋する遺伝子~




『 営業部 部長   真田 健吾 』

 
 親父の名詞?
 ただ、その肩書きは ”専務” じゃない。
 古い名刺だろう。
 日の目を見ずに保管されていたのか、くたびれた感じはない。
 これを渡されて俺は、どう反応すればいい?

「当時、名古屋の自宅で母に渡された名刺です」

 午前とはいえ、真夏の太陽が肌を容赦なく啄いた。
 目の前の白岩は長袖を着てるのに、汗ばむ様子は見えなかった。
 その存在自体がクールだった。


 次に繰り出された言葉は冷気をはらんでいたのか、蝉の鳴き声さえも止めたのかと思う程…
 俺の背筋に冷たい汗が流れる以外の時が止まった。


「あの日母は、あなたのお父さんに、手切れ金をお返ししました」


< 175 / 343 >

この作品をシェア

pagetop