コガレル ~恋する遺伝子~


 進行方向にいた私の前で、ふいに立ち止まった准君。

「お母さん…て、呼ぶべき?」

 お母さん?

 救いを求めて視線を流した先の圭さんは、眉間を押さえてうなだれてる…

 間違えた、あの人に救われる訳がなかった。
 慌てて、ブンブンと首を横に振った。
 お母さん、なんて困る。

「そお? じゃ、弥生ちゃん、よろしくね」

 にっこり笑顔で私の肩をポンってして、准君も玄関から外へ行ってしまった。


 からかわれたんだ…
 ムリ…無理 無理 無理…無理です、こんなの。
 このまま回れ右して、この屋敷から逃げ出したかった。

 でも、バッグが…
 私のバッグがソファの足元に置いてあった。
 専務が私と一緒に運んでくれたんだと思う。
 そのバッグのすぐ隣にはスリッパに突っ込まれた生足…圭さんの。

 私の視線に気づいたのか、圭さんがバッグを取り上げた。
 それを黙って私に向かって差し出した。

 吸い寄せられるように、ローテーブルをよけて近づいた。
 手を伸ばして受け取るはずが…
 私が手を伸ばしたらヒュッとバッグが引っ込んだ。

 空振りした右手。
 ふっ、って鼻で笑う圭さん。
 また足元に戻されるバッグを、何が起きたのか理解できなくてただ目で追うしかなかった。

 意地悪…されたんだ。

 さらに耳を疑う言葉に襲われた。




「ストッキング脱いで」




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