コガレル ~恋する遺伝子~

 今日は漁協の取材があった。
 競りや出荷の様子を遠巻きに撮影して、邪魔にならないよう取材は一段落してからという手筈だった。

 待機の時間に海岸の防波堤を歩いてみたら、弥生さんが物憂げに水平線を見つめた。
 シャッターチャンスのような気がして、そっとそばを離れた。

 シャッターを切る頃には、弥生さんは両腕を天に向かって伸ばして、全身に余すことなく太陽を浴びさせていた。
 フレアスカートが秋風を孕ませて揺れた。

 それはまるで、波と太陽と風を操ってるかのようで。

 響く写真が撮れたと思う。
 後で本人に確認してから、コンテストに応募しようかと考えた。


「仁王立ちの、いい画が撮れました」

 俺の存在をすっかり忘れていたように、振り返った弥生さん。
 さっきの姿勢をデフォルメして真似して見せた。


「そんなにガニ股じゃない。モデル料もらうから」

「じゃ、夕飯奢りますよ。何食べます?」

 弥生さんがこうした誘いにほとんど乗らないことは分かってた。
 まただ、返事は憂いのある笑顔で誤魔化された。

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