コガレル ~恋する遺伝子~
エピローグ
 村瀬 冬馬です。
 フリーカメラマンしてます。

 ある日、フリー冊子 “熊本タウン情報誌 くまたん” の編集部に、弥生さんはやってきた。

 熊本育ちの編集長と、同じく熊本育ちの弥生さんのお母さんが同級生、ということが面接の時に分かった。
 そんな縁で採用がすんなり決まったらしい。

 弥生さんは中学まで熊本に住んでたけどその後名古屋へ、大学で東京へ出たそうだ。

 同じ熊本出身の女性でも、夢は素朴なのに、弥生さんは洗練された感じ。
 それが東京で培われたものなのか、元々の素材の違いなのか、俺には分からない。

 弥生さんの第一印象は、“綺麗なお姉さん”。
 でも話をしてみると印象とは違って、可愛らしく親しみやすい人だった。
 ただ、憂いのある翳りのようなものがいつまでも消えることはなかった。

 弥生さんは初めは編集長と出かけて、取材の仕方を教わった。
 いざ一人で取材へ行ってもらったら、写真の出来がそれはそれは酷かった。
 デジカメでどうしたらこんなに下手くそに撮れるの?ってくらい、何を伝えたい画像なのかさっぱり分からなかった。

 それから弥生さんの取材には俺の同行が必須となった。
 景色の撮り方や、消え物の撮り方、人物の撮り方をその都度教えてあげた。

 カメラの腕は徐々に上達させるとして、取材の方は弥生さんの外見と人柄から、すぐにスムーズに進むようになった。
 特に取材相手が男性なら、デレデレにさせてしまう傾向がある。
 哀しい男の性だ。
 弥生さんが詐欺師だったら相当稼げたに違いない。

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