コガレル ~恋する遺伝子~

 翌日、編集部に顔を出したら嶋さんはもう来てた。
 夢の隣にいて、薄っぺらい女子トークでもしてたんだろう。

「冬馬君おはよー」

 俺を見るとこっちに手の平を向けて、指をバラバラと前後させた。

「他の仕事、後回しにして来たんだから。埋め合わせてもらうわよ」

 嶋さんはギャランティを格安にしてくれる代わりに、俺の一晩を拘束する。
 といっても、俺は間違いなくノンケだから飲みに付き合うだけだ。

 ただ、嶋さんは酔うとかなり質が悪い。
 なだめたり、すかしたり、熟練の技が必要だ。
 それでも嶋さんの腕がイイだけに、背に腹は変えられない。

「お手柔らかに」
「人聞きの悪い。いつだって私、柔らかいじゃないの! ね、夢」

 よく言うよ、ゴリッゴリのハードのくせに。

「私もたまには連れてって下さいよー」
「やーよ、子供は寝てなさい」
「子供じゃないですよ、子供だって産めるんですから」
「キー、ムカつくわね、あんたにだけは冬馬君は譲らないわよ」
「は? 要りませんよ。どうぞ煮るなり焼くなりご自由に」
「ご自由にできるなら、とっくに食べてるわよ!」

 ハァ…
 セッティングしよう…
 床に一度置いた機材を持ち上げた時、弥生さんと真田圭が揃って現れた。

 真田圭は相変わらずのオーラだ。
 っていうか、弥生さん…
 昨日はあんなに避けてたくせに、朝まで一緒コースとか?

 いつもと違う?
 着ているものや髪型が特に変わった訳じゃない。
 何ていうか…纏わりついてた翳りが消えて、甘ったるい印象になった。
 挨拶を交わした嶋さんにもそれが伝わったのか、雰囲気が変わったと案の定言われてるし。

 一晩でこうも変わるものなのか女って。
 その原因は分かりすぎるほど分かる。
 真田圭の仕業だ。

< 337 / 343 >

この作品をシェア

pagetop