極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「真帆」
彼は私だけを真直ぐ見てすぐ傍まで近寄ると、人目もある場所だというのに更には伊崎も目の前にいるというのに、突然腰を屈めて私の頬に軽く口づける。
いきなりのことで避けるのが遅れた私は、慌てて彼の身体を押し返した。
「ちょ、朝比奈さんっ」
「ごめんね。仕事で疲れてるだろうにくだらない茶番に付き合わせて」
じわ、と汗を掻きながらちらりと伊崎を見れば、なんとも複雑な表情で絶句している。
そりゃそうだ、いきなり存在を無視されて目の前でいちゃつかれればそんな顔にもなる。
「あの、電話でも説明しましたけど、伊崎はほんとにちょっと魔が差しただけで。私と朝比奈さんのことも本当に知らなかったみたいで……」
とりあえず存在を思い出してあげて、と口にしてみたのだが。
朝比奈さんが笑顔のまますっと目を細めたのを見て、しまった逆効果だったと気が付いた。
「あっ、伊崎がどう、とかではなく、私はもう朝比奈さんを疑ってもないし、倉野さんのことももういいんじゃないかって……」
慌てて言い訳めいた言葉を重ねるが、決して言い訳でもなく本音だった。
腹は立つけど、さっき伊崎にも言った通り結局は私たちの問題なのだ。
私たちが、どうするのか。
伊崎から真相を知ったからには、今となっては倉野さんはわざわざ追い詰めなくてももう放っておいてもいいんじゃないだろうか。
もう後は、私と朝比奈さんとふたりで話し合えばいい。
そう思いを込めて彼を見上げたが、返ってきた微笑みは多分『NO』を現していた。
「倉野さんも伊崎も、最初から関係ないよ。君と僕の問題には最初から無関係だ。なのに、横やりを入れて真帆を傷つけたことはきっちり謝罪してもらう」
言いながら私の頬に手を添え親指で撫でる。