極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


カナちゃんとほどよく飲んで、駅からアパートまでの道のりを歩いている時に着信があった。


「朝比奈さん。お疲れ様です」

『お疲れ様。まだ飲んでる頃かなと思ったんだけど、大丈夫?』

「もう解散しました。今うちまで歩いてるとこで」

『歩いてるの? 遅い時間になったらタクシー使った方がいいよ』


咎める言葉が、くすぐったくなるほどに嬉しくて。
夜道にひとりにやける私は傍目には不気味かもしれない。


「もうちょっとで着くから大丈夫ですよ」


朝比奈さんと別れてから、ずっと仕事一筋だった私。
女性扱いされることは勿論、遅い時間になっても女として心配されるようなこともなく、すっかり枯れた自分に慣れていた。


そんな私を、彼はあっという間に『女』に戻してしまった。
大事にされることが、嬉しい。
ちょっとでも、綺麗だと思われたい。


仕事にかまけておざなりになっていたスキンケアが、復活したりなんかしている私は単純だ。


街灯の明るい道を選び、五分程の距離を行く間。


私は今日の仕事がどうだったかとか、カナちゃんと話したことだとか、朝比奈さんは大阪支社のことをぽつぽつと、互いの今日を報告し合う。


『みんな、よく頑張ってたよ。僕は、恐怖の対象として定着してるから、優しい言葉は言わないけどね』


そう言った彼の声は、とても優しい。
大阪支社のことも、三年勤めた場所として大切に思っているのだと、伝わってくる。


その気持ちが少しでも、相手にも伝わっていれば嬉しいと思うけど。
朝比奈さんのことだから徹底して鬼をやってそうなので、そこが少し、ほろ苦い。


「良かったです。明日は、早く帰れそうなんですか?」


鬼の朝比奈として仕事をしてきた彼に、ちゃんとその仮面が脱げて息ができる様に。
そういう場所に、私はなりたいと思う。


明日は何か、手料理でも作ろうか。
頭の中はすっかり、明日のことで舞い上がっているのだけれど、続いた彼の言葉にひゅるると撃沈した。


『それが、ごめん。明日は帰れそうにない』

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