極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

ぱぱっと髪を撫でつけて、体裁だけ取り繕うとドアを開けた。
少しだけ室温よりも低い空気が部屋に流れ込む。


だけど、目が合って華やいだ朝比奈さんの笑顔はふんわりと温かかった。


「可愛い」


一歩玄関に入って後ろ手にドアを閉めると、彼が私の額にキスをした。
そこではっと思い出す。


パックをするために、前髪をピンでとめて額を全開にしていたのだった。


「……お風呂入ってたとこだったので。びっくりしました」


靴を脱ぐ彼にそう声をかけ中へと招き入れてすぐ、ローテーブルの方へと促そうとしたら先に手首を掴まれた。


「約束守れなくて悪かった」


申し訳なさげな声にきゅんと胸を掴まれる。
私は正面から彼の胸に近づいて、ぽふんと頭を預けてから、きゅーっと抱き着いた。


「新しいマンション、楽しみにしてました」

「うん、ごめんね」

「約束してたのに。寂しかった」


正直な気持ちを口に出すのは、気恥ずかしくて、抱き着いていれば顔が見えないから、案外言えた。


本当なら、仕事で仕方のないことにこんなことを言うのはワガママだ。
よくできた彼女なら言わないだろうけど。


私は、よくできてはいないので正直に言うようにしようと、決めている。
無理は、良くない。


それに、朝比奈さんは私が寂しいと言っても絶対に仕事に向かう。妥協はしないだろう。
だから、逆に安心して言えるというか。


正直な気持ちだけは言葉にして、会いたかったのだと伝えてもいいんじゃないかと思えたのだ。

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