春になったら君に会いたい


「あー、疲れた」

病院で久しぶりに目が覚めてから数日が経った。ここ数日は、身体を支障なく動かせるようにリハビリをしている。今はその帰りだ。


なんとなく憂鬱な気持ちで廊下を歩いていると、曲がり角に差し掛かった。
この病院は入り組んでいて、初めて来た人は迷子になってしまうこともある。とはいえ、毎年お世話になっている俺からしてみれば、何度も繰り返しやっている迷路のようで面白みも新鮮さもない。もう飽き飽きだ。





どんっ。

重い足どりで角を曲がった瞬間、体に何かがぶつかった。
まだ万全ではない俺は足元をふらつかせて尻餅をついてしまう。思い切り打った尻が若干痛い。

何に当たったのかと思い、顔を上げると、正面には同い年くらいの女の子が立っていた。


「あ、あの、すみません! 私よく見てなくって。お怪我してませんか?」

ふわりとした可愛いらしい声。少し青白い顔には、焦りと申し訳なさが浮かんでいる。


俺は立ち上がって尻をはたき、軽く笑ってみせた。

「大丈夫ですよ。俺もぼーっとしてたので。そちらは怪我してませんか?」

初対面の相手、しかも女子なので怖がらせないように丁寧に話す。
こういう話し方をする俺を見たら、正晴は大爆笑するだろう。それくらい普段の俺には似合わない。


彼女は「大丈夫です」と微笑み、もう一度謝ると走り去ってしまった。

あまりにもすぐにいなくなってしまったため、俺は廊下に一人取り残されたような感じになっていた。
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