春になったら君に会いたい
11月も中旬に差し掛かる頃には、俺は今まで以上にのぞみのところに通いつめていた。のぞみは嫌そうな顔は全くせず、いつも必ず歓迎してくれる。だが、会えない日もたまにあった。そんな日は、きっと体調がよくないのだろうと想像がついた。俺は無事であるように願うことしかできない。それが悔しかった。

今日は二日ぶりのお見舞いである。バイト終わりに病室に行くと、のぞみは楽しそうに漫画を読んでいた。調子がいいようで安心する。俺が持ってきた今日発売の雑誌を手渡すと、さらにウキウキした様子になった。
 
「浮かれてる」
「そりゃ浮かれるよ! この雑誌楽しみにしてたもん!」

小刻みに揺れながら雑誌を開く彼女を見て、つい思ったことが口から出た。のぞみは高いテンションのまま、こちらを見ずに答える。本屋で見かけてなんとなく買っただけなのに、そんなに楽しみにしていたものだとは知らなかった。

「じゃあその雑誌やるよ」
 
元々は自分用に買ったのだが、これだけ楽しんでくれるならのぞみにもらってもらった方がいい。しかし、俺の言葉を聞いたのぞみは、なぜか目を伏せた。

「申し上げにくいんですが……この雑誌お母さんが後で届けてくれる予定です」

ちょっと申し訳なさそうに言われる。もちろんそれならそれで構わない。ただ、俺が振られたみたいで少しだけ癪だった。
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