春になったら君に会いたい
「じゃあ後で読め」
「えー、今読ませて!」
「後で届けてもらえるんだろ?」
「今読みたいんだもん」
「そんなに変わんねえよ」
「変わるよ! ね、じゃあ、一緒に読も」
そんなやり取りで俺が勝てるはずもなく、気がつけば一緒に雑誌をめくっていた。なんだかんだ一通り全ページに目を通す。細かい文章は読み飛ばしているようなので、おそらく後でじっくり読むことにしたのだろう。俺も家に帰ってからじっくり読むことにする。
「冬くん」
雑誌をしまっていたら、のぞみに声を掛けられた。テンションが上がっていたからか、妙に楽しそうな明るい声だ。
「ん?」
「春になったら何したい?」
「え、なんだよ急に」
あまり明るくない話題にどきっとする。いや、普通なら明るくて楽しい話題なんだろう。でも俺たちにとっては違う。春になったら、の前に、そもそも春を迎えられるのかすら分からないのだから。
「急じゃないよ、ずっと考えてたの。私はねー、春になったら苺のアイス食べたい! 前に冬くんと行ったお店また行きたいなあ」
純粋な願いだ。あのお店の苺アイスは、一年中売られている。のぞみが望むなら買ってくることはできるのだ。でもきっとそういうことじゃない。