春になったら君に会いたい

「冬くんは?」

優しい聞き方に、なぜか涙が出そうになった。最近の俺の情緒はあまりにも不安定すぎる。のぞみは春まで生きると決めた。それをわかっていても、耐えられないものがあった。
 
「俺は……そうだな、春になったら映画見たい」
「あの小説の実写化でしょ! キャストめっちゃ豪華だよねー!」
「そうそれ。キャスト発表されたとき、すげぇテンション上がった」

どうにか平静を装って答えられたと思う。あの小説、というのは俺がのぞみにおすすめされて読んだ小説のことだ。つい先日映画化が発表されて、ネットでも話題になっている。冬に公開されると映画館で見られないことが多いので、春公開なのはありがたい。最近は配信が盛んになったが、やはり映画は映画館で見るのが一番だろう。

もし、これ以上を願ってもよいのなら、もちろんのぞみと見に行きたいが、そこまでは口にしないでおく。彼女もそこまでは口にしなかった。
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