春になったら君に会いたい

しばらく話を続けたあと、正晴はリュックから何かを取り出した。話している間もリュックの方をチラチラと見ていたので、何かあるのかと思っていたが、やはり事情があったらしい。

「冬に渡したいものがあるんだけど」

改まった雰囲気に、つい背筋が伸びる。正晴から物をもらうことなんてしょっちゅうで、今更特別なことなんてないはずなのに。
 

「のぞみちゃんから冬への手紙」

そう言って差し出されたのは、淡い黄色の封筒だった。表には俺の名前が書いてある。丸みを帯びた可愛らしい文字だ。


「なんで」

声が震える。何に対する疑問なのか、自分でも分からない。多分俺は今、すごく動揺した顔をしていると思う。目覚めてからずっと夢の中にいるような感覚だったのに、手紙という形のあるものが突然現れたからだ。

「のぞみちゃんに頼まれて俺が預かってた。冬が起きたら渡してくれって」

その言葉で、俺が眠っている間に正晴とのぞみが会っていたことを知った。のぞみが自分の死期を悟って、正晴に手紙を託したのだということも。

「本当は退院してからでもいいかと思ったけど、変に先延ばしにするのもよくないと思うから」

しょっちゅう見舞いに来て、体調を心配してくれるようなやつだ。快調ではない状態の俺に、のぞみからの手紙を見せるのは少し心配だったんだろう。ずっと俺の様子を伺うような目をしている。

無言で受け取ると、正晴は手紙から離した手で自分の頭を搔いた。整っていた髪が少し乱れる。

俺はといえば、受け取ったはいいものの、どうしてよいのか分からなかった。手紙なんだから読めばいい。当たり前の話だ。だが、すぐに封を開けることはできなかった。

< 183 / 203 >

この作品をシェア

pagetop