春になったら君に会いたい

知っていた。わかっていた。
奇跡はそう簡単に起こらないから奇跡なのだと。

でも、願わずにはいられなかった。
起きたら笑顔で迎えてもらえることを。
一緒に桜を見に行って、たくさん話をすることを。


高望みだったとは思わない。ほんの少し、一瞬だっていい。一緒に春を迎えたかった。桜を見せてあげたかった。

そんな些細なことすら叶わない現実を恨むほかない。
どんなに恨んだって変わらないと知っているから、受け入れていこうとしてきた。自分の体質も、のぞみの病気も恨むことなんかじゃ治せない。

でももう恨む以外に何ができるだろう。受け入れることなんてできるはずもない。今まで達観して、受け入れたふりをして、心に蓋をしていただけだった。


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